80年代からスタイリストとして活躍し、錚々たるアパレルやインテリアブランドの立ち上げに携わり続けてきた、近藤 昌氏。
現在は長年の経験を活かし、ファッションブランド「TOOLS」を立ち上げ、「ルックスも機能性もこだわった」素材を用いながら、大人のための心地よい洋服作りを続けている。
そんなTOOLSの新作ラインナップの中でも目を惹くのが、王道かつ上質なルックスでありながら、ストレッチ性や形態安定性に優れた、「ソロテックス」使いのチノパン。
「ストレッチは嫌いだった」という近藤氏が「ソロテックス」を採用した理由に加え、近藤氏の半生と現在の二拠点生活について、話を聞いた。
近藤:僕は日本初のセレクトショップであり、SHIPSの前身でもある「MIURA&SONS」のオープニングスタッフとしてファッション業界に入り、80年代中頃からスタイリストとして働き始めました。その後、CIBONEやCLASKAのプロデュースを行ったり、ZOZOTOWNの立ち上げに携わったりもしましたね。
以前は僕のポリシーとして、「スタイリストは基本的に裏方の仕事だから、できるだけ目立たない方がいい」という考えもあったのですが、長くこの世界にいる中で「洋服を作りたい」「自分のブランドをやりたい」という気持ちも芽生えてきて。最初は、他のブランドのデザインを手伝いながら服作りの方法を学びました。
その後、現在のTOOLS会長とともに「卸しは極力行わず、webサイトやポップアップショップを中心にして自分たちで販売する」という形で自分のブランドとして始めたのが、TOOLSです。

近藤:TOOLSのコンセプトは「暮らしを豊かにする、力を抜いた服」。高級なもの、凝ったものって世の中にたくさんあると思うんです。でも、TOOLSはそうではなく、「やりすぎない良さ」を大事にしながら、どこの国のどんな場所でも「雰囲気のいい男」になれる洋服を作っています。
メインターゲットは、「服が大好きだった大人たち」。そんな人たちが、また洋服を楽しめるきっかけを作れたらと思っているんです。展示会に来てくれる方も、リピーターが多くて。「あのチノパンが良かったから、色違いが欲しい」なんて声を聞くと嬉しいですね。
近藤:千葉の一宮と東京を行き来する生活を、もう9年くらい続けています。祖母の家だった一軒家を買い取って自分たちの手で改装して、千葉の拠点にしたんです。そこがSTREAMER COFFEEの一宮店である「STREAMER FIELDPOST」。都内の店舗とは趣の違う、開放感にあふれたちょっと特別な空間なんです。山や海など、自然の中にある「ストリートじゃないストリーマー」という位置づけで、“FIELDPOST”という名前をつけました。
近藤:僕自身が週末にお店を開けて、バリスタとして働いています。TOOLSの服やサンプルも少し置いていますし、お客さんと直接話をするのも楽しいですね。
僕はサーフィンも好きなのですが、千葉の海に通っているうちに価値観が大きく変わりましたね。海辺で出会う人たちは、みんな肩書きや立場に関係なくフラットで、東京では味わえない自由な雰囲気がある。
高価なジュエリーや時計を売って、暖炉を買ったこともありました。暖炉って、家を暖めてくれるだけでなく、お湯も沸かすことも、洗濯物も乾かすこともできる。そして何よりも、みんなが集まる「場」を作り出すことができる。そういった「役に立つもの」に価値を感じるようになったんです。「TOOLS」というブランド名も、そういった発想から生まれたものです。

近藤:帝人フロンティアの方に「こんな生地がありますよ」と紹介してもらったのがきっかけです。実際に手に取ったとき、まず「見え方」がすごく良かった。
生地の光沢感と色の奥行きが違う。縦糸と横糸の色を変えて織ることで、玉虫のようなシャンブレー感が出ているんです。しかもストレッチが効いていると聞いて驚きました。
でも正直、僕は今まで「ストレッチ素材」ってあまり信じてなかったんですよ(笑)。伸びても戻りが悪かったり、すぐ劣化したり。でもこの生地は違った。伸びすぎないし、ちゃんと戻る。しかも見た目は王道のチノ生地にしか見えない。そこがすごく気に入りました。程よいストレッチのおかげで、履き心地もすごくいいですね。

近藤:ベーシックなチノパンをベースに、素材とシェイプを現代的なものに置き換えています。形はあえて太めのテーパード。最近は細めのパンツも多いけれど、あえてかなりボリュームを持たせて、アメリカンカジュアルな空気を残しました。
チノって伸びないから履きづらいイメージがあるけれど、この「ソロテックス」はしっかり伸びるのにシルエットが崩れない。そこが最大の魅力ですね。
近藤:僕は何よりも素材にこだわっています。服って、素材の良し悪しが最初に見たときの印象として伝わると思うんです。ルックスはもちろん、心地よい手触りで機能性に優れた素材を使うこと、それが一番大事。トレンドに合わせて、形やディテールは調整できるけれど、素材の持つ空気感はごまかせないですから。
近藤:セットアップですね。展示会でも「ジャケットとパンツの組み合わせが欲しい」という声が多いんです。
「ソロテックス」なら見た目が上品だから、ジャケパンスタイルにも合うと思います。動きやすいのにきれいに見える、そういう大人のジャケット&パンツを作りたいです。
近藤:今でも十分魅力にあふれた素材ですが、たとえばもっと軽くて速乾性の高いTシャツなども見てみたいですね。
あと、天然素材とミックスしたものも面白いと思います。たとえばコットンやリネンと「ソロテックス」を掛け合わせて、もっと季節感のあるものを作れたらいいなと考えています。
