日本の重要無形文化財である久留米絣(くるめかすり)。
CATHRIのディレクター・佐藤幸子氏は、その深い色合いとモダンにも使える柄に惚れ込み、2020年、CATHRIを立ち上げたのだという。
そしてその地域も世代も越える普遍的な魅力から、CATHRIは世界中にファンを抱えるほどに成長している。現在のブランドを巡る状況に加え、「バズったのかなと思うほど、初動が良かった」という「ソロテックス」を使ったアイテムについて、話を聞いた。
久留米絣を後世に伝えるためのプロジェクトとして、CATHRIは2020年にスタートしました。当初は、福岡県と共同で運営する1年間のプロジェクトだったのですが、一過性のもので終わりたくないという思いから、ブランドとして続けたいと会社に相談して。「まずは5年やってみようか」という話になり、BEAMSがブランドホルダーとなってこれまで続けてきました。
そして今年、「丸5年経過して、ブランドはこのようになっています」と会社に報告したんです。そして「会社としても今後さらにグローバルに目を向けていきたいので、ぜひブランドとして続けて欲しい」ということになり、今後も継続することとなりました。
久留米絣の良さを知って欲しいという思いからスタートしたブランドではありますが、最初の入り口は、お客様に「素敵だな、着てみたいな」と思ってもらうこと。
1年目の時には、モダンな生地と組み合わせるということはあまり考えていなかったのですが、2年目のタイミングで帝人フロンティアさんの展示会にお伺いした際に「エコペット」の素材感が素敵だなと思ったんです。年々暑くなっていることを感じていましたし、BEAMSとしても、サステナビリティを意識していかなければいけない段階に来ていたこともあり、リサイクル素材でありながら美しい「エコペット」に魅力を感じて。
採用するにあたって、「カスリネイビー」という深い藍色の生地を一緒に作り上げて、今ではブランドのアイコンカラーとも言える存在になっています。シルクやサテンのような高級感があって軽く、シワになりづらくてすぐに乾く、というところに魅力を感じてリピートしてくださる方も多いですね。
これまでの5年の間、織元の方々と接しながら久留米絣について知ることで、「思い通りの柄を織るというのが、これほどまでに難しいのか」ということを、私自身少しずつ分かりはじめてきました。
それと同時に、「いつかこの柄を作りたい」という目標のような柄も、織元さんとブランドとの間で共有するようになってきて。これからも続けていく中で、そんな柄を織る機会を作れたらと思っています。
CATHRIの服は、接客するお客様全員の体をポジティブに見せることができると思うんです。「この場所で紐を結ぶと似合いますね」とか、「カジュアルに着たい時には垂らすのもいいですよ」というように、着物のようにお客様の個性に合わせて調整しながら着ることができる服。
そのため、長年愛用してくださるお客様も非常に多いんです。若い頃に購入された方が、「妊娠した時や幼稚園の入園式の時にも着ているんですよ」と言って写真を見せてくださることもあって、本当に嬉しいです。
久留米絣は水を通すことでしなやかになると言われている織物で、とても丈夫。「エコペット」も非常に耐久性が高いので、長く着続けて頂くことができると思います。私が5年間着続けているものも、素敵に育ってくれていますね。
私は織物を中心にデザインを考えることが多いのですが、久留米絣の生地はモダンな素材と合わせると、日常的に着やすい雰囲気に仕上がると思うんです。
昨年、帝人フロンティアさんの展示会で「ソロテックス」を見かけた際に、90年代のPRADAやHELMUT LANGのような、スポーティーでミニマムな雰囲気もマッチする生地だなと思って。
軽くて着やすそうだし、これでチュニックとかキュロットを作ったらどうなるだろう、と考えはじめたら、どんどん想像が膨らんで。当日商談の席で「この「ソロテックス」でこんなものが作りたい」とラフ画を2パターン描いたんです。いつもは久留米絣を決めてから合わせる生地やデザインを発想するんですが、その時は逆でしたね。
例えば最近ではレザーのTシャツや、陶磁器のジュエリーなども作っているのですが、素材からインスピレーションを得ることが多いですね。「ソロテックス」は、シワになりにくいし、出張の時などにも便利なだけでなく、質感も非常に素敵な素材。「こんなものを作れば素敵で快適に過ごせそうだな」と、すぐにアイデアが湧いてきました。
チュニックとキュロットの2型で、ともにカスリネイビーとブロンズの2色展開。どちらの型も、工夫次第でさまざまに着こなせるようになっています。
チュニックは肩紐と袖口に久留米絣があしらわれており、紐の結び方で表情をつけられるとともに、襟もとのドローコードで調節することでベアトップのようにも着ることができます。袖口をまくらず、紐を内側にしまうとよりシンプルでスポーティールックスに。膝上丈なので、一枚でミニワンピースのように着用することも可能です。
キュロットは股下深めのマキシパンツとして着用することはもちろん、紐を短く結んで肩に掛ければ、パンツスタイルのワンピースのようにも。紐と裾に久留米絣があしらわれており、見せ方次第でさまざまなスタイルを楽しむことができます。
チュニックとキュロットをセットアップで着用頂くと、よりモードな雰囲気に。単体でもさまざまなコーディネートに使えるアイテムになっているかと思います。
いろんな着方のできる服が好きなんですよね。サンプルをモデルの方に着てもらった際に、「こうすればもっとアレンジできるな」って修正しちゃったりもするんです。
今回は「ソロテックス」の持つスポーティーでミニマムな雰囲気を活かしたくて、こんなパーツを組み合わせてみました。ドローコードなどを使って調整すれば、どんな体型の人でも綺麗に着られるというのもいいですよね。
20代からずっとファッションに携わってきましたが、歳を重ねるごとにこだわるポイントが違ってきて。最近は「着心地の良さ」とか「楽に着ることができる」とか「体型が変わってもポジティブに思える」ようなことを重視するようになってきていますね。そうすることが、世界中の人に着てもらえることにもつながると思うんです。
「これがバズったって感じなのかな」と思うくらい、発売初日からかなりの反響があって。「ソロテックス」の生地やパーツ使いもあって、いつもよりもモードに感じて頂けたらしく、若いお客様や新しいお客さまも増えているように感じます。本当に初動から反応が良かったですね。
6年目にしてようやく、久留米絣に恐縮することなく、ディレクターである私自身がのびのびとデザインできたような気がしています。それと、若い織元さんたちと出会えたことも大きいかも知れません。
店頭で私が接客していて、「久留米絣を現代に取り入れている」という背景を伝えると、「Congratulations! こんなブランドは他にないわ!」って褒めて頂く方がいらっしゃって。それから来日するたびにお店に通ってくれるようになったんです。そんなふうに気に入って頂くお客様が、それなりの数いらっしゃいますね。
2ndシーズンからずっと継続している、シルクのような雰囲気の「エコペット」や、ヴィンテージの生地からヒントを得た細番手の麻なども使っています。
天然素材と「ソロテックス」を組み合わせた生地なども非常に面白いのではと思いましたね。麻と「ソロテックス」をミックスしたり、ウールに「ソロテックス」を組み合わせたニットなどからも、デザインを発想していければと思っています。
店頭に立ってCATHRIについてお話しさせて頂いていると、遠い海外の方であっても「同じ価値観を共有できた」と思える瞬間が本当に多いんです。
来年はBEAMSが生まれて50年の節目でもありますし、会社としてもさらにグローバルに展開していく予定。CATHRIを通じて、今後も久留米絣の素晴らしさを世界に伝えることができたらと思っています。