SOLOTEXT

2020.08.07 Fri

product almostblack川瀬正輝が追求する、天然素材と「ソロテックス」の融合

普遍的な魅力を放つ洋服づくりで着実にファンを増やし続けているブランド、product almostblack。

デザイナー川瀬正輝がモダンで快適な洋服を追求するために2019SSからスタートさせた同ブランドは、ウールやコットンなどの天然素材と「ソロテックス」を融合させたオリジナルの生地づくりにも貪欲に挑戦している。その洋服に対する熱意、そしてその原動力の裏にある「思い」について、話を聞いた。

 

改めて、product almostblackブランドのコンセプトをお教えください。

2015年に中嶋峻太と共に立ち上げたALMOSTBLACKでは、日本のアートをインスピレーションにした コンセプチュアルな洋服を手がけてきました。その一方で、より自分個人として求める洋服を作りたいと思い、2019のSSシーズンにproduct almostblackを立ち上げました。そのコンセプトとしては、実用的であること、必然性のあるデザイン、時代が変わっても残るタイムレスなもの。この3つを柱として、機能的且つモダンに進化したプロダクトを目指しています。

僕が理想とするいい洋服は、見た目の美しさと快適さをいいバランスで融合させることが重要だと思っています。例えばテーラードジャケットは鎧のように体のラインを綺麗に見せるが動きに制限がかかるぶんストレスを感じてしまう、その一方で軍モノは分量が多く動きを制限しないけれども無骨である。それらを、いいバランスで融合させたいと思っているんです。

快適さとエレガントさという一見相反すると思われる要素を、バランスをとりながら融合させてゆく、ということですね。

モダンで品のいい感じを前提にしながら、動きやすく調整を加える形でパターンを整えていく、と言う感じです。ただ見た目がかっこいいだけで着心地の悪い洋服はそのうち着られなくなってゆくため、タイムレスとはなり得ないと思うんです。

僕は古着も好きなんですが、軍モノは製作当時の時代背景を考えるとよく考えられている一方、今の基準からすると重かったり、いまいちかっこよく見えないこともありますよね。古い名作のものから学びつつ、今の技術を活用してより現代的に洋服を進化させたいと思っているんです。

2020FWでリリースされる、ライナーコートをベースにしたコートは、まさに古着に学びながら最新技術も活用されているものですね。ウールに「ソロテックス」を混ぜたオリジナルの糸で織り上げているということですが

僕の知り合いで素晴らしい梳毛のウール糸を作っている愛知県尾州の紡績工場さんがあるんですが、その工場さんとTEIJIN FRONTIER(以下、TEIJIN)の技術を生かした新しいウールメルトンを作ることができないか、と考えたんです。基本的にメルトンは紡毛と呼ばれる短繊維のウールを使って織り上げるのですが、重くて固く感じるのが難点でした。

この生地は短繊維(スパン)の中でも長い繊維のウールを選りすぐって使うことにより、軽くて柔らかく、しかも「ソロテックス」を混ぜているためストレッチ性もある。具体的には、スーパー110’sのファインメリノウールとラムウールに20%の「ソロテックス」を混ぜ合わせて糸を引いたもので織り上げています。

TEIJINさんの最新技術を借りることによって、本当に素晴らしいものを作ることができたと思います。

確かに従来のウール混「ソロテックス」の中でも、かなり厚い生地感でありながら軽いですね。しかも非常に上品な艶があって、エレガントな雰囲気を醸し出しています。

細くてしなやかな糸を使っているため、生地の毛足を整える工程が難しかったようです。それと、パターンを引く際、軍モノのライナーコートの縫製を研究しながら気づいたんですが、構造線の箇所が全てひと続きで縫われているのには驚きましたね。大量生産を前提とした軍モノならではの配慮だと思います。このコートは、贅沢な素材と最新技術を用いた生地を使いながら、極限にシンプルな縫製で作られていると言う点でも、非常に面白いものではないかと思います。

こちらのニットベストも、ウールと「ソロテックス」を混紡した尾州産のウールで編まれたものですね。

ウールならではのナチュラルな風合いでありながら、「ソロテックス」を混ぜているためにくたびれないのがいいんですよね。通常ウールニットの商品って、着用を繰り返すうちそれなりにヨレてくるのですが、このニットは「ソロテックス」のキックバック性により、いつまでも下ろしたてのような雰囲気を保っていられます。

この着物をモチーフにしたテーラードジャケットも、ウールと「ソロテックス」の合わせ技で作られた糸を使用しているとのことですが

「ソロテックス」を芯にしながら、ウールを巻きつけた「カバーリング」という製法で作られた糸を使用しています。ルックスは上質なウールなのに程よくストレッチが効いていて、しかもウォッシャブル。

軽量化を図るために、通常のジャケットで使われる毛芯を極力使用していないのですが、「ソロテックス」を使用していることにより、型崩れの心配はほとんどないんです。 ウール混の4wayストレッチの「ソロテックス」は、TEIJINさんとともにオリジナルで開発しました。正直ロット数は少ないんですが、熱意をもって「こんな素材を作りたいんです」とお話しした結果、協力を頂けることになったという形ですね。

 

さらに「ソロテックス」やTEIJIN FRONTIERに求めることはありますか?

今後も新しいことに挑戦したいので、TEIJINさんとともに、これまでなかった素材を作っていきたいと思っています。とくに、天然素材と「ソロテックス」を融合させた素材の可能性を追求していきたい。

実は今、上質な綿素材と「ソロテックス」を融合させたシャツの生地を、2021年SSシーズンに向けて開発を進めているところです。ただ最新技術のみを駆使して作ったものは不自然になると思うんです。僕はさまざまな時代の洋服が好きなので、ルーツを知ってその良さも生かしながら、最新技術を上手に取り入れることでバランスよく現代的に進化したものを作れるか、ということに挑戦していきたいと思っています。