中目黒にある旗艦店〈M.I.U.〉での様々な取り組みもそうですが、伊藤さんは常にどこか実験的な取り組みをされている印象です。その辺り、意識しているところはあるのでしょうか?
何か人と違うことをやってやろうって鼻息を荒くしているわけじゃなく、自然とそうなることが多いですね。そういった面白い企画は、友人や知人との雑談の中で生まれるものが多いです。「こういうのがあったら面白くない!?」っていう突拍子もない思いつきを形にしてくれるスタッフや友人に感謝しています。
確かに。思いつきは誰にでもありますが、それを実現する力を持つ人は多くない。大事なのは実行力かもしれません。
確かに、面白いと思ったらやってみるという実行力はあったかもしれませんね。
ところで、ブランド設立当初と今とでは考え方の違いはありますか?
あります。色々経験を経て価値観は変化していますが、今一番感じる変化は、自分がブランドの顔として立ち回らなくていいと思うようになったこと。前まではどこか“デザイナー”を演じるところがあったのですが、今はいい意味でもっと俯瞰に見ることができている気がします。
デザイナーを演じるというと?
自分の中に勝手に描いていた“デザイナー像”があって、それに見合う自分であるように考えていたし、行動していたように思います。今はそういうのは全く無くなって、もっと普段の状態でいられている。それは僕にとってとてもいい変化だったと思います。
事実、2018年の秋冬コレクションから新しいデザイナーを迎え、ご自身の肩書きをディレクターに変えていますね。
やっていること自体は大きくは変わらないのですが、信頼できるデザイナーを迎えることができたおかげで自由度は増しました。普通のテンションで、当たり前のリズムでクリエーションができる感じがしています。結果、やるべきことと求められることがずれなくなってきた感じはありますね。
ずれてしまうことも多かったんですか?
ずれまくっている時期もありましたよ(笑)。デニムを求められていない時期にデニム限定のコレクションを展開したり、シーズンテーマをストイックに掘り下げすぎてマニアックなものになりすぎてしまったり。それはそれで、僕の経験の中でとても大事なプロセスだったと思いますが、今はもっと世の中の流れにチューニングがあってきた気がしています。
それにインプットする時間も増えたので、クリエーションの精度も上がっている感覚もある。何をやるべきかはもちろん大事ですが、何をやらなくていいかということにも正しい判断ができるようになってきた気がしますね。
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