SOLOTEXT

2020.06.03 Wed

THE NORTH FACE大坪ディレクターが語る、新定番「Doro Light pants(ドーローライトパンツ)」開発の舞台裏

創業55年を迎える老舗アウトドアブランド、THE NORTH FACE 

寝袋のノウハウを生かして制作されダウンジャケットの先駆けとなったシエラパーカや、ゴアテックスを採用することで雨を防ぐ同時に通気性にも優れたマウンテンパーカなど、まさに「名作」と呼べるウェアを多く作り出して来たのは周知の通り。

そんな先進的なウェアを作り続けるTHE NORTH FACEが、近年採用している素材のひとつに、「ソロテックス」がある。

その背景について、プロダクトディレクターとして企画からデザイン、プロモーションまで取りまとめる大坪デイレクターに話を聞いた。

 

THE NORTH FACEのウェア群は、その機能性からアウトドアだけでなくタウンウェアとしても支持されていますが、なぜそのような評価を得るに至ったのだと思いますか?

僕がTHE NORTH FACEに関わり始めた2000年代初頭には、アウトドアブランドが作るウェアは命に関わるものだから、ファッションの領域に踏み込むべきではない、という風潮がかなり強くあったんです。

例えば、山に行くためのウェアであるマウンテンジャケットで、視認性の悪い黒はあり得ない、というような。もちろんその考えも理解しているのですが、機能的なアウトドアウェアをストリートやビジネスといった異なるシーンで自由に着用するのもアリだな、とも思っていて。

店舗で「本格的なアウトドアに使うのであれば、視認性の高い色を選ぶべき」ということも伝えつつ、コーディネートの選択肢として黒のジャケットもあってもいいのではないかということで作り始めた結果、「黒」のアイテムはTHE NORTH FACEを象徴するものとなっていきました。それと時を同じくして、アウトドアウェアをデイリーに着るという世の中の流れも出てきたように思います。最初はゴアテックスを使用したアウターなどから始まり、インナーやパンツまで、日常的にアウトドアウェアを着るということが徐々に浸透していきました。

2017年FWシーズンから登場したDoro Light pantsは、今では定番とも言えるアイテムになりましたね。

細身でありながら立体裁断で足を上げやすいAlpine Light pantsのシルエットを調整して、素材に「ソロテックス」を採用したものなんですが、おかげさまでパンツカテゴリーでトップクラスの売上となっています。

股上を深くするとともに膝にダーツを入れて、ウエストや足周りの動きをできるだけ自由にするようにデザインした結果、リリース当初からファッションカメラマンや編集者の間で動きやすく機能的なパンツとして評判となり、定番化していきました。決して安くはないアイテムなのですが、オンラインショップでのユーザーの評価も高く、カラー違いで2本3本買っている方もいらっしゃるようです。

素材感やシルエットの美しさにも定評がありますが、なぜ「ソロテックス」を素材として選んだのですか?

軽くて通気性に優れストレッチが効いており、かつポリウレタンを使わずに耐久性も高い素材として挙げられた候補のひとつとして、「ソロテックス」がありました。素材の候補として取り寄せてみると、求めていた機能性を十分に満たすだけでなく、思った以上にナチュラルで高級感のある風合いだったため、採用に至りました。

Doro Light pants」というネーミングの由来は?

「上に登る」こと向けにデザインされたAlpine Light pantsにくらべて「前に歩く」というコンセプトだったので、遠くに軽く行ける「道路」という意味と、イタリア語で「黄金」 を意味する「Doro」との意味を掛け合わせて、「Doro Light pants」と名付けました。

品番ではなくストーリー性のある名前で呼ぶことで広く一般に認知してもらえるのと同時に、口コミで伝わったり検索されやすいということもあり、ネーミングは大事だなと思っています。

このショーツは、Doro Light pantsの短いバージョンですね。

Doro Light pantsをランニングなど多用途に使いたいと思って作ったものです。夏にはこのまま海に入ることができるだけでなく、すぐ乾くのもいいんですよね。しかもスイミングのような安っぽさもないので、カフェなどに着て行くこともできる。ベージュやカーキ、レッドなどのカラーバリエーションがありますが、しっかりと発色しながら、高級感も感じさせるところが気に入っています。

 

こちらのTシャツも、生地からTEIJIN FRONTIERとの協業で開発されたそうですね。

化学繊維にありがちなフラットな表情を避けるため、「ソロテックス」と通常のポリエステルを組み合わせてコットンライクで自然な風合いに仕上げました。少し大きめに作っているんですが、厚手でシルエットも綺麗なところが気に入っています。

実はこの素材、思い通りに仕上げるため、2年ほどかけて作られたものなんです。ゼロベースから素材を作り出す際には、TEIJINの担当の方と僕との間で同じゴールをイメージすることが大事。そのためにもコミュニケーションをしっかり行いながら、じっくりと仕上げていきました

TEIJINとの素材の共同開発はいかがですか?

THE NORTH FACEとしては、「この素材を使って何か作ろう」と素材ありきで商品開発をすることはなく、「こんな機能性を実現するには、どの素材がいいだろう?」と、明確な目的を持って素材にアプローチしていきます。

TEIJINさんにはさまざまなオリジナルの繊維がありますが、それぞれ特徴がはっきりしているため、「この風合いでこの機能性なら、あの繊維かな」と候補として挙げやすい。その中でもソロテックスには多くの特徴があると同時に、他の素材とも組み合わせることで広がりを出すことができる素材だな、と感じています。