クラシックなジャケットから、アウトドアウェア、現代の機能素材を用いたバッグまで。中室太輔さんが見てきたファッションの領域は幅広い。一見、対極に思えるトラッドと機能服も、その成り立ちを辿れば、どちらも使う人のための実用から形が導き出されているという。完成されたデザインを大きく変えるのではなく、現代の生活に必要な機能を加え、静かに更新していく。その思想は、中室さんがディレクションするMONOLITHのものづくりにも貫かれている。

EDIFICEでキャリアを始めた経験は、現在のものづくりにどうつながっていますか。
僕がEDIFICEにいた頃は、フレンチトラッドを軸にしながらも、世界中からデザイナーズブランドや、当時まだ広く知られていなかった服を仕入れていました。金子恵治さんがバイヤーを務め、オリジナルを小森啓二郎さんがデザインしていた時代で、今振り返ると、非常に貴重な経験をさせていただいた時期でした。そんな環境で販売員、プレスとして、トラディショナルな老舗から、デザイナーの自由な発想によるインディペンデントなブランドまで、本当にいろいろな服を見てきました。自分でも意識しないうちに、ファッションを見る目を養っていたんでしょうね。その経験を糧に独立して、最初にお話をいただいたのが、THE NORTH FACEのプロモーションの仕事だったんです。そこで初めて、本格的なアウトドアウェアと向き合いました。衝撃だったのが、「機能がデザインを決定する」という考え方です。デザイナーの感性から自由に形を作るのではなく、必要な機能を突き詰めた結果として、そのデザインになる。それまで触れてきた服とは、ものづくりの順番が全然違ったんですよね。その経験で、ファッションを見る視野がさらに広がったと思います。今のものづくりにも、この視点が生きています。
トラッドと機能服は、対極にあるものなのでしょうか。
最初は別のものとして見ていたんですけど、後から考えると、実はそれほど離れていないんですよね。例えばテーラードジャケットも、何十年、何百年と基本的な形が変わっていません。襟やラペル、ポケットの位置にも、もともとは一つひとつ役割があった。軍服やフィールドウェアをルーツに持つものも多く、テーラードジャケットも本来は、機能がデザインを決めた服だと思うんです。今では使われなくなった機能が、装飾として残っている部分もあります。テクノロジーや生活がいくら変化しても、テーラードジャケットを作ろうとすると、結局みんなあの形に戻っていく。そう考えると、トラッドも機能服も、どちらも出発点は“実用ありき”。 最初は全然違うものだと思っていたけど、「あれ、根本は同じなんだな」と、今は捉えています。

MONOLITHのバッグにも、その考え方が反映されていますか。
まさに、反映されています。MONOLITHにとって特別な位置付けであるバックパックも、すでに先人たちが完成させた形があります。50年ほど前、アメリカのバッグメーカーなどが生み出した、1日分の荷物を収める“デイパック”。あの形は、道具として非常に理にかなっているんですよ。だから、そこから奇をてらって、まったく別の形を作ろうとは思っていません。ただ、当時はスマートフォンもノートパソコンもなかったじゃないですか。今デイパックを作るのであれば、スマートフォンをすぐに取り出せるポケットや、パソコンを安全に収納できるスペースが必要になる。完成された形はきちんと尊重しつつ、今の生活に必要な機能を加えていく。MONOLITHで考えているのは、基本的にそういうことなんです。

ご自身の装いにも、同じ姿勢が表れていますか。
それは、すごく表れていると思います。「昔からスタイリングが変わらないね」と、本当によく言われます(笑)。自分ではパンツの太さや丈、ジャケットのサイズ感を少しずつ変えているんですけど、周りから見れば気づかない程度なんでしょうね。MONOLITHのものづくりも、それに近いかもしれません。すでに完成されたバッグの形から大きく逸脱せずに、機能の部分でどう更新するかを考える方が好きなんです。パッと見た印象はほとんど変わらない。けど、使っている本人には進化がちゃんと分かる。そういうものに惹かれますし、自然と自分のものづくりにも、その考え方が表れているんでしょうね。結局、僕ってかなり保守的なんだと思います。
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