清永 浩文

Hirofumi Kiyonaga

Special Interview
2020.08.04 Tue

01. ただ、僕にはそれしかなかっただけ

 

今、時代が必要とするものを的確に嗅ぎ分けながら、必要十分なデザインとスペックを備えたプロダクトを提案し続ける。〈SOPHNET.〉〈F.C.Real Bristol〉〈uniform experiment〉を手がける清永さんのクリエイションは、常にユーザーの的を射続けています。そのクリエイティビティはどこから生まれ、どこに向かうのか?「ソロテックス」とのコラボレーションで生まれたものとは? 貴重なお話を伺いました。

1998年にファッションブランド〈SOPH.〉(現SOPHNET.)を立ち上げて以来、清永さんはブレることのないクリエイションを展開し続けている印象です。しかもそれが第一線であり続けている。その感性は一体どこで形成されたのか、ファッションの原体験を教えていただけますか。

 

自分の母親の趣味が洋裁で、足踏みミシンで何か作っているのを幼少の頃に見ていた記憶があります。新聞紙でパターンを引いて服を作ったり、ニットを編んだり。だから僕は、小さい頃にあまり既製の服を着たことがない。本当の意味での“原体験”となると、そこまで遡るかもしれませんね。結果、僕がこんな仕事をしていることを、もしかしたら母はしめしめと思っているかも(笑)。

常にオーダーメイドの服を着ている感覚ですね。

 

確かにそうですよね。よくテレビを見ながら「あれが良い」とか言って、似たようなものを作ってもらっていました。

いわゆるファッションに目覚めるのは、中学に入ってから。高校生になってからは一生懸命バイトして、洋服を買うために熊本や福岡まで遠征したのもいい思い出です。

 

 

ファッションを仕事にしようと思ったのはいつ頃ですか?

 

しようと思ったっていうより、逆にそれしか選択肢がなかった。インタビューでよく答えるんですけど、「自分の武器と言えるものがそれしかなかった」んです。

 

 

最初のキャリアは?

 

地元での色々な職種を経て、東京に出てきたのが23歳。当時は〈A.P.C.〉で販売員として働かせてもらっていました。6年間そこでお世話になったあと、30歳でブランドをスタート。それが〈SOPH.〉ですね。

“いつかは自分のブランドを!”と思っていたんですか?

 

いえ、これも同じで「そうするしかなかった」という感じ。当時は毎日がとても刺激的で楽しかったのですが、やはり東京の授業料は安くなかった…(笑)。稼いだお金以上にファッションにつぎ込んでいましたから。そんなファッションヴィクティムな生活をし続けるにはこのままでは無理だと思い、一念発起、一旗あげることに。これでダメならもうしょうがないくらいの感じでした。

 

 

アイデアを温めていたというわけではなく、ブランドをやると決めてからコンセプトや方向性を決めていった。

 

まさに。98年の秋冬にスタートしたのですが、ファーストコレクションは20型中16型がニットやカットソーだった。なぜかというと、ニットやカットソーはパターン代がかからなかったから。最小限の軍資金でのスタートでしたので、色々工夫しながらスタートを切りました。〈A.P.C.〉ではバイヤーの仕事もさせていただきましたが、モノを作るということは全く経験がなかった。たくさんの知人や友人に助けてもらいながら、なんとか形にして行ったのを覚えています。

僕は基本的にシンプルなものが好きで、どちらかというとヨーロッパのカジュアルが好き。自分が作る服もシンプルで洗練されたものにしたかったんです。ブランドのコンセプトといえばその程度。よくそれで走り出したなと今では思いますね(笑)。

 

 

ブランド名はどのようにして決定したのですか?

 

日本人のファッションセンスの一番いいところは“粋”という感覚を持ち合わせていることだと僕は思うんです。それはデザインだけじゃなく、着こなし方も、さらには生き方も。その“粋”という感覚をさらに解釈すると“都会的”という言葉になり、さらにそれを再解釈したら“Sophisticated”という言葉が浮かんできた。それを短縮して、SOPH.に着地したんです。

 

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清永 浩文Hirofumi Kiyonaga
洗練された日常着を目指し98年「SOPH.」を設立 (2002年にSOPHNET.へ改名)、翌99年には架空のフットボールチームを想定し「F.C.Real Bristol」を、2008年にはメンズウェア(ユニフォーム)の実験的プロジェクト「uniform experiment」をスタートするなどチャレンジングな戦略でシーンを牽引し続けている。7月末には渋谷の新たな複合商業施設「ミヤシタパーク(MIYASHITA PARK)」内に新店がオープン。