清永 浩文

Hirofumi Kiyonaga

Special Interview
2020.08.12 Wed

02. 必要に駆られることがパワーの源

 

ブランドスタートの翌年には、新しいレーベル〈F.C.Real Bristol〉を立ち上げています。

 

実は〈SOPH.〉の最初の展示会が終わってすぐ、ワールドカップを見るためにパリに行ったんです。その時は1ヶ月近く滞在したかな。そこでふとみんながサッカーウエアを着て歩いていることに気づいたんです。今でこそ当たり前ですが、当時の日本にはそんな人はいなかった。スポーツとファッションがまだリンクしていなかった時代だったんです。

その次のワールドカップが日韓共同開催だったということもあり、僕もファッションでサッカーを盛り上げられればと思っていたのですが、自分のクラブチームを立ち上げることなんてできないし、いきなりどこかのクラブチームのユニフォームを作ることもできない。そこで僕は架空のサッカーチーム〈F.C.Real Bristol〉を作り上げて、そのユニフォームを作ることにしたわけです。それならやりたい放題ですからね。

 

 

その着眼点、そして発想の転換がとても面白いです。

 

結局、『売れそう』なものを作るより『必要に駆られる』ことがパワーの源だと僕は思うんです。当然自分のモチベーションも上がるし、伝えたいことも理解してもらい易いし。

 

 

制限がある中でこそ、アイデアや工夫が必要になるし生きてくる。その通りだと思います。後にブランド名を〈SOPHNET.〉に変えたのも、藤原ヒロシさんと〈uniform experiment〉を立ち上げたのも、その時々の必要に応じて?

 

そうですね。ブランド名を変えたのは実は商標の問題。変更を迫られた結果〈SOPHNET.〉になりました。実はこの時、公式HPも立ち上げるタイミングだったのですが、「.com」のドメインをとることができず「.net」になったんです。ならばブランド名も〈SOPHNET.〉してしまおうと。NETにはみんなと繋がるという意味合いもあるし。偶然を必然にしちゃうのも僕の癖ですね。

〈uniform experiment〉に関しては、ヒロシさんと「何かやりたいね」っていう会話をしている中で、ビジネスマンのスーツで何か新しい提案ができないかという話になったのが始まり。窮屈な出勤がもうちょっと快適になればいいのに、というところから、スーツ=uniformをアップデートする実験=experimentというコンセプトで始まりました。

仕事着のカジュアル化、自由化は今でこそ盛り上がっていますが、それを2008年(uniform experimentのスタート時)から展開していたとは、、かなり時代を先取りしたプロジェクトだったのですね。そしてそれを、今も一貫してやり続けているというところがすごいです。

 

SOPHNET.〉は洋服好きな僕。〈F.C.Real Bristol〉はサッカーバカな僕。〈uniform experiment〉は藤原ヒロシさんと一緒に考えて創る挑戦的な僕。20年もブランドが続くと変化を余儀なくされる場合もあると思うのですが、幸いなことに僕はほとんど変わらない。というよりも、変わらない勇気を選んだ、またはエンターテイメントとしてのファッションではなく消費者のためのファッションを選んだと言っていいかもしれません。そして多分僕はこのまま、それぞれのSOPH.を一生変わらず演じ続けると思いますね。

ブランドの立ち上げから、架空のサッカーチームのためのユニフォームづくり、ブランドの改名に、実験的なブランドのスタートまで。清永さんは「業界に一石を投じ続けている」と評されがちですが、清永さんの中ではちょっと違う感覚でしょうか?

 

別に業界に新風を吹き込もうとか、ファッションで世の中を変えるとか、そういうことは正直言ってないんです。もちろん、まだ誰もやっていない面白いことを探す意識は常に持つようにしてはいますが、何か突拍子もないことをやってのけようと思っているわけじゃない。インスピレーションはいつも自分の生活の中。そしてデザインそのものよりも、今の時代にぴったりの“生き方”みたいなものが着想元になることが多いかもしれません。特に何も必要と感じない時は、特別なアクションは何も起こしませんし、起こす必要もないと思っています。

 

 

コラボレーションを積極的に展開されていますが、それには理由があるのでしょうか?

 

「餅は餅屋」。シンプルにそういうことです。今回の「ソロテックス」プロジェクトでもバブアーとのコラボレーションウエアを製作しましたが、例えばバブアーのようなアウターをうちがオリジナルで作りたいと思っても、絶対に作れない。作ったとしても酷いクオリティになるのは目に見えています。ならば素直にコラボレーションするのが正しい。素直にそう思うんです。

 

 

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清永 浩文Hirofumi Kiyonaga
洗練された日常着を目指し98年「SOPH.」を設立 (2002年にSOPHNET.へ改名)、翌99年には架空のフットボールチームを想定し「F.C.Real Bristol」を、2008年にはメンズウェア(ユニフォーム)の実験的プロジェクト「uniform experiment」をスタートするなどチャレンジングな戦略でシーンを牽引し続けている。7月末には渋谷の新たな複合商業施設「ミヤシタパーク(MIYASHITA PARK)」内に新店がオープン。