「ちょうど昨日、繊研新聞に「ソロテックス」の広告が載っていましたね。それを見て、商品ではなく素材自体が付加価値訴求の一部になる時代なのだと改めて実感しました」。開口一番そう語ってくれた栗野さん。日本を代表するセレクトショップの創立メンバーであり現在は同社の上級顧問を務める氏に、ファッションと素材、そして時代にまつわる貴重なお話をお伺いしました。
日本のファッション黎明期から現在に至るまでファッションシーンを見つめ続けてきた栗野さんですが、本日は素材とファションの歴史、そしてそこから見えてくる素材の重要性についてお伺いできたらと思っています。
それでいうと僕のキャリアなんかよりももっとずっと前の話になりますね。例えばナイロンやポリエステルは1930〜40年代に発明されたものですが、ファッションに与えた影響は計り知れない。まさに革命的ですよね。ナイロンは伝線しにくいストッキングを実現させた素材ですが、当時の最新技術やファッションの発信都市であるニューヨークとロンドンを意識した製品という意味を込めて生まれた造語=NY+LONだという都市伝説も残っているくらいです。
確かにナイロンやポリエステルは多くの衣料に大きな革命をもたらしました。
歴史を遡れば、そもそものファッションというものはオートクチュールやテーラーメイドが主流だったわけで、その多くが一点ものだった。だから裕福な人しかファッションの楽しさを享受できなかった。ところがナイロンやポリエステルが誕生したことと大量生産技術の発展で、多くの人がファッションを楽しめるようになった。生活が近代化するにつれ女性が社会進出するようになり、家事を時短するためのケアしやすい衣類が求められたこともあって、衣類の変化と進化は進んでいきました。
そして戦争が終わり平和な時代になると、余暇という概念が生まれてスポーツやレジャーが盛んになる。コットンとナイロンを混紡した60/40クロスや「ゴアッテクス」のような機能素材が誕生し重宝されたのは、そんな時代背景があったからだと思います。
技術が進歩することで新しい素材が誕生し、同時にファッションも進化していったわけですね。
もちろんデザインによってもファッションは進化しています。70年代後半から80年代くらいにかけてそれは顕著だったんじゃないでしょうか。70年代の「イヴ・サンローラン」や「ジョルジオ・アルマーニ」、80年代の「コム・デ・ギャルソン」や「ヨウジヤマモト」、「イッセイ ミヤケ」が象徴的ですよね。
20世紀後半以降、日本のブランドは機能性にコミットするのも得意で、例えば「ヨウジヤマモト」は「アディダス」と組んだ「Y-3」でそれを実践したし、「イッセイミヤケ」は「PLEATS PLEASE」という発想でデザインと機能を融合させた。「コム・デ・ギャルソン」や「ジュンヤワタナベ」も積極的に開発素材を使用してきました。素材が衣類に新しい可能性を与え、デザイナーがデザインの力を使ってそれをブラッシュアップする。ファッションと素材の相互関係はとても興味深く、面白いものだと思います。
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