分業が主流の金属加工において、金型からプレス、ヘラ絞りまで一貫して製造を行っている藤田金属。この利点を活かしつつ、企画や販売まで3兄弟が協力し合いながら自社で行う同社が2019年に発売した「フライパンジュウ」は、レッド・ドット・デザイン賞などを受賞、ロングヒットの商品となっている。
そんな藤田金属のワークウェアを、F/CE.が手掛けたという。F/CE.がなぜ、小さな町工場のワークウェアをデザインしたのか、そしてその素材として「ソロテックス」が選ばれたのはなぜなのか。
藤田金属の4代目社長・藤田盛一郎氏に加えて、F/CE.を運営するオープンユアアイズ代表兼デザイナー山根敏史氏、そしてそのプロジェクトの橋渡しをした電通の寺田昌樹氏に話を聞いた。
藤田金属 藤田盛一郎社長(以下藤田社長):藤田金属は1951年にここ八尾市で創業して、フライパンや鍋、ヤカンなどを作り続けてきました。老舗ではあるものの、10数年前までの販路は量販店やホームセンターに限られていて、売れる商品を作っても半年後には低価格で真似されてしまうような状況だったんです。このままではまずいと思い、藤田金属としてのブランディングを模索し始めたんです。
展示会などで知名度を上げつつ、「なにか画期的な新商品を作れないか」と考えていた時期に、金属加工のサンプルを頼まれる形で、クリエイティブユニット・TENTさんと知り合って。「鉄材のフライパンで取っ手が着脱式のものを作りたい」とTENTさんに相談したところ、このコンセプトのものが上がってきて。持ち手の強度や着脱式の構造など、20近くのサンプルを作りながら、なんとか「フライパンジュウ」を形にすることができました。
藤田社長:会社として行ったのは、最低限のプレスリリースを出したぐらいです。それを見たテレビや雑誌、ウェブメディアなどが取り上げてくれて、さらに購入されたお客さんがSNSに上げることで、大きな反響となりました。
さらに違う入口から藤田金属を知ってもらえればと思い、テーブルランプや植木鉢などのそれまでは手掛けていなかったジャンルの商品も作りはじめたんですが、そのタイミングで電通の寺田さんにお声がけ頂いて。
電通 寺田昌樹氏(以下電通寺田氏):もともと八尾市にある町工場の方々と仲良くさせていただいていて。ブランディングとか、PRとか、何か手伝えることはないかと探ってたんです。そんな時、藤田さんと出会って話したのがはじまりです。
そこで「商品の企画やデザインは自分たちでなんとかできても、働いている人たちのモチベーションを上げたり、ここで働きたいという人を増やすというのが難しい」という悩みがあると知ったんです。モチベーションを向上させるにはどうすればいいか、ということを考えた時に、ワークウェアを作るということを思いついて。
電通寺田氏:F/CE.の機能的でありながらモダンな世界感が、藤田金属のワークウェアに非常にマッチするな、と思って。
F/CE.山根敏史氏(以下F/CE.山根氏):F/CE.の母体であるオープンユアアイズでは、Nordiskというキャンプ用品も扱っているんです。その関係もあって、もともと藤田金属さんのフライパンジュウは「直火で使えてお皿にもなるし、軽量で荷物も減らすことができるからキャンプの時にも機能的だな」と気になっていて。それに加えて、資生堂のユニフォームを作るプロジェクトが終わったばかりで、「ユーザーの話を聞きながら機能的に作るユニフォームって、面白いな」と感じていたので、お受けさせていただきました。
F/CE.山根氏:F/CE.でも毎シーズン何かしらのアイテムで「ソロテックス」は採用していて、先ほどお話した資生堂の新しいユニフォームでも使っているんです。「ソロテックス」の、丸洗いできて皺になりにくく動きやすいという特性は、ユニフォームやワークウェアにも最適。使い慣れた素材ということもあって、迷うことなく採用しました。
F/CE.山根氏:工場を訪れて働く姿を見させていただいた際に、作業時に体を保護しながら動きやすいオーバーオールにしよう、と思って。ワークウェアやミリタリーウェアのディテールを取り入れつつ、シルエットやポケットの配置などは、藤田金属さんとラフをやりとりしながら決めていきました。
動きやすさを考えて少しゆったり目のシルエットで、膝部分などにはタックを施しています。さらに暑いときや通勤時には、前あてを下ろすこともあるかな、と思ってベルトループを付けています。裾にはドローコードが付いているので、夏には足を捲くることもできるんです。
F/CE.山根氏:作業時には火の粉が飛ぶこともあるということで、コットンに「ソロテックス」をミックスしたオリジナルの素材を製作しました。「地域の製造業を盛り上げたいよね」と帝人フロンティアさんとも相談して、近場である和歌山のオカザキニットに発注したんです。作業する際には腕まくりするという事も想定して、リブにも「ソロテックス」を入れて耐久性を高めています。マットな素材感もかっこいいので、作業着としてでなく、普段使いもできると思います。
F/CE.山根氏:工場を見させていただいた際、ヘラ絞りの機械をはじめ、丸い機械やフライパン型などが工場の象徴的な形状だったので、丸をモチーフとして入れさせてもらいました。円形に重なるロゴは藤田さんが50年以上積み上げてこられ、進化させてきた強い柱を意味し、その柱のもとで強いコミュニティーがあるという意味もあります。さらに創業年を入れつつ、小さめにF/CE. PERFOMANCE UNIFORM PROJECTのロゴも加えています。これは、帝人フロンティアの「ソロテックス」使用のテキスタイルを採用したアイテムに付けているものなんです。
F/CE.山根氏:自信を持って販売できるクオリティとデザインですし、働く時だけでなく普通にも着られる方が、サステナビリティという視点でもいいな、と思って。「かっこいいから通勤の時にも着て行きたい」と思ってもらえればありがたいですね。
藤田社長:工場のスタッフ全員で着ると、一体感があって本当にかっこいいですね。「普段着としても着たいので、追加で欲しい」なんていう、山根さんのコンセプト通りの声も聞くことができましたし、働くモチベーションも上がるのではと思っています。
電通寺田氏:今回の取り組みがこの1回きりで終わるのは非常にもったいないな、と感じています。2025年の大阪・関西万博の際には、各地の工場に観光客を迎え入れて、作っている現場を見てもらう「オープンファクトリー」なども計画されているといいますし、雇用の際に働く現場の動画が使われる事も多くなっています。ウェアをかっこよくすることによって「製造業で働きたい」と思うきっかけになってもらえればいいな、と。さらに関西だけでなく、日本各地でモノづくりを作っている現場でも、同じような取り組みが広がっていけばいいですね。
F/CE.山根氏:「着ることによってモチベーションが上がる」って、ある意味で服のすごい機能性なんじゃないかと思うんです。働く意欲が湧くとともに、自分の仕事に一層のプライドを持つことができて、より優れたものづくりに繋げることができれば素晴らしいと思います。