辻 直子

Naoko Tsuji

Special Interview
2020.01.30 Thu

02. 空気感を作り上げること

 

スタイリストとして辻さんが表現したいことは何ですか?

 

シンプルに、“ファッションの楽しさ”でしょうか。例えばラグジュアリーブランドやモードブランドを最先端のビジュアルで表現するスタイリストのお仕事もあります。でも、私が伝えたいことはもっとリアルな部分。洋服そのものを生かすのではなく、それを着る人を生かすといったほうが正しいかもしれません。

確かに、辻さんが多くのファンに支持される理由はそこにあるのだと思います。

 

でも、それは私の力というより、時代の変化が大きいんじゃないかな。

 

 

というと?

 

スタンダードなものをハンサムに着るということが、ここ10年くらいで定着したと思うんです。私が好きなもの、表現するものは基本的にコンサバティブなので、それがうまく時代とマッチしたという感覚が私の中にはあります。

それ以前のレディスファッションってもっと甘くて可愛いものだったと思うんです。雑誌でいうと、いわゆる赤文字系が流行って、ギャル誌が流行って、そのあとに『CLASSY』『BAILA』『Oggi』などのコンサバ誌と言われる雑誌に象徴される雑誌が一時代を築いた。そして、そのあとにようやく『VERY』のような大人のためのラフでこなれたスタイルを提案する雑誌が流行った。“可愛い”に対抗する“ハンサム”という価値観が注目を集め始めたんです。モード服を着るわけでもなく、若作りをするわけでもなく、シャツをさっと羽織ってデニムとスニーカーで決まる、みたいな。そういうファッションは欧米人には似合っても日本人には難しいという考え方があったんですが、それをアイテムの選び方や着こなし方でカバーして攻略する。それが、私が好きなスタイルともマッチしたんだと思うんです。

 

 

確かに『VERY』の登場でそのスタイルは定着しました。

 

でもそれって実は結構難しい。ある意味ごまかしがきかないから、シルエットや素材をきちんと吟味する必要があります。

 

 

辻さんが表現するもの、スタイリングのテイストは昔から変わらないですか?

 

振り幅はもちろんありますが、基本的には変わらないです。女らしさは求めたいけれど、色っぽさは求めない。あったとしても、できるだけ削ぎ落とした、湿度のないクリーンな色っぽさ、でしょうか。

ただ、私はコーディネートだけを見せたいんじゃないんです。メイクやシチュエーションを含めた空気感までセットにしたい。身に付けたいものはその時々で変わってしまうけど、その軸にある女らしさは変わらない。その感覚を提案したいと思っています。

好きなブランドはありますか?

 

〈セリーヌ〉や〈ステラ マッカートニー〉は昔からずっと好きですね。それと〈サカイ〉も大好き。数年前から着ていますが、自分が身につけた時のユニークさの引き出しをあけてくれた私にとって貴重なブランドなんです。私は基本的にコンサバティブなものが好きなのですが、やっぱりその中にユニークさは欲しい。とは言え突拍子のないものではなく、適度な意外性のあるもの。そういった視点で見たときに〈サカイ〉の服ってすごく絶妙だなあって。自分の思考回路というかセンスにもすごく刺激を与えてくれるんですよね。こういうブランドが日本にあるっていうのはすごく嬉しいことです。

 

 

コンサバティブと凡庸は全く違うもの。

 

まさに。むしろみんなと同じであることは、積極的に避けています。

 

 

次回は2/4(火)公開予定です。お楽しみに!

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辻 直子Naoko Tsuji
数多くの女性誌で活躍するトップスタイリスト。セレブリティからも信頼が厚く、ファッションブランドとのコラボレーションも多数。雑誌BAILAの連載をまとめた『「6割コンサバ」の作り方』(集英社刊)や、『おしゃれの想像力』(幻冬舎刊)など、著書も人気。同性から絶対的な支持を得ている。